はじめに
私の行っている、マインドフルネスをベースにしたハコミセラピーは、1970年代の終わりに、アメリカのロン・クルツ氏がメソッドに応用して発展したサイコセラピーです。
日本には1980年代に入ってきましたが、私自身は、1990年代後半に、ハコミセラピーを学んでいらした手塚郁恵氏と出会いました。
私はもともと5年間幼児教育に関わっていたこともあり、乳幼児のこころの健康な発達はどのように阻害されてしまうのか、無意識の中にできてしまう自分や他人・周囲の出来事に対するネガティブな概念は、どのように作られ、どのように変えることが可能なのかということに関心を持ちながら、手塚氏のもとで2008年まで学ばせていただきました。
そして実際に、数々の自分自身の物の見方・感じ方・性格の変化を通して、大人になってからのコミュニケーショントラブルは、どのような幼児期の体験を修正すれば、今現在のコミュニケーションの改善に繋がるかを、系統立てて知ることができました。
また、ゲシュタルトのエンプティーチェアやアドラー心理学の親子関係講座などを学ぶ体験は、自分の変化に学問的な裏付けをもらう学びとなり、現在のトレーニングの基を築いてくれました。
これらの体験を活かした、根底からの変化を目的としたトレーニングや講座は、個人様や企業さまとの定期契約はもちろん、都内のメンタルクリニックでのカウンセリング・アドバイスでも活用し、大変ご好評をいただいています。
不安を煽られるような出来事ばかりの今、ネガティブな感情(不安だけでなく、悲しみ・憎しみ・怒り・辛さなど)を投げつけ合っているようなこの現代で生きるのは、大変なことです。
感情の投げつけあいという連鎖を終わらせて、人本来の持つ、あたたかさ・やさしさ・喜びなどのようなポジティブな気持ちをプレゼントしあう世の中になっていって欲しい・・・そのためにも、マインドフルネスをベースとしたこのトレーニングは、ぜひ必要だと思うのです。
皆さんがご自分のネガティブな感情や感覚をご自分で終わりにして、本当の肯定感を取り戻し、豊かなコミュニケーションでいきいきとした日々を過ごして欲しいと、こころから願っています。
マインドフルネスを使ったセラピー
近年、グーグル社やインテル社も社内の作業効率アップに使用している「マインドフルネス」は、日本うつ病学会や日本産業精神保健学会など、あちらこちらでその名前が聞かれるようになりました。
マインドフルネスとはいったい何でしょう?
電車の中で夢中で本を読んだ経験は、誰にでもあるものと思います。
この本に集中している状態で、本の代わりに自身の感情・感覚にフォーカスするのがマインドフルネスです。
トレーニングでは、マインドフルネスという瞑想の状態を用いることで、普段は気づかないような微細な感情・感覚にも気づくことができます。
ただし、夢中で本を読んでいる時と同じ状態ですから、途中で辞めようと思えば、簡単に辞めることができます。
無意識と繋がるということ
大抵の場合、人は悩んだり苦しんだりしている時、頭ではどうしたらいいのかその解決方法は知っているにもかかわらず、その通りにしようとしても、心や感情やいつもの行動は思うように変ってくれないという現実があります。
たとえば人目が気になる人が、「人目を気にしなければいいのだ」と解ることと、気にならないようになることは別です。
「気にしないようにすればいい」という、頭の理解は簡単です。
けれどその方は、気にすることを止めようとしても、止めたくてもやめられない“感覚”や“気持ち”が湧き上がってきてしまいます。
この感覚や気持ちの奥に、やめられないわけ(一般的には原因と呼ばれる理由)があります。
無意識に気にしてしまったり、気にすることを止められない感覚や気持ちは、生まれた時点であったものではないはずですから、その感覚や気持ちをゆっくり感じていくと、インプットされた時の記憶にたどりつくのは、実はとても自然なことと言えると思っています。
ただ、日常の意識レベルでこれらを行おうと思っても、容易なことではありません。
実は私は、辛さ・悲しさ・恐怖・恥ずかしさなど、強い感情・感覚を伴った記憶というのは、身体の緊張とセットで起こるのだと考えています。
突然怒られて「ビクッ!」とした経験は誰にでもあるものと思いますが、大きく体が動かなくても、肩が上がったり、上半身が一瞬硬直したりします。
記憶というのは、一般的には脳の中にあると考えられていますが、実は身体の記憶というのもあるのではないかと思うのです。
事実、マインドフルネスになると、(しっかりと統計をとったわけではありませんが、それでも)8割がたの確率で、まず出てくるのは身体の変化です。
「肩の辺りが何となく固い」とか、「胸の辺りが苦しい」とか、「のどの付け根にふたのような感じがある」など・・・
この出てきたものに対して、無理なく安全にハコミセラピーの技法を用いてアプローチをして、マインドフルネスの状態を深めていきます。
すると、自分でも忘れていたようなその時の記憶が出てきたり、辛い体験をした時にこころの中で感じていたつぶやきなどがでてくる・・・という流れが生じます。
意識レベルでの会話ではなかなかたどり着けない記憶に、マインドフルネスはかなりの確率でたどり着くことができます。
また、記憶そのものが辛いのではなく、記憶に伴う感情・感覚が辛いのですから、感情・感覚のデドックスができれば良いということになります。
かなり大雑把に言えば、マインドフルネスは身体感覚という入り口を通して記憶の原点にたどり着き、これらの出来事にまつわる感情・感覚のデドックスを行う方法と言えるでしょう。
シンプルな方法で慣れて来れば簡単に、ある程度まで自分でセルフワークできるようになります。
そして自分がやりたい時にやりたい場所で行える比較的安全なやり方でありながら、深い変化が期待できるマインドフルネスは、ぜひたくさんのみなさんにご体験にただきたいと思います。
セッションのたどり着くところ
さらにマインドフルネスになると、良いい感じや嬉しい感じなど、ポジティブな感じが出てくることも良くあります。
れはこころの基礎体力をつけるサプリメントと同じですから、さらにゆっくりと感じて、自自己肯定感・自己信頼感を大きく根付かせていく・・・感情デドックスという側面だけではなく、いわば「こころの健康度をあげる」ような使い方もできます。
また、余談になりますが、感情や感覚・身体感覚の傾聴が基本ですので、話したくないような記憶(状況説明)は、お話しいただかなくてもセッションが可能です。
話したければ話してくださればいいし、話したくないことは話さなくてもいい・・・
ことばに頼らない感情・感覚を傾聴していくメソッドだからこそできることと思います。
ご相談者の方が過去の状況を説明する時に、よく言われるトラウマの再体験のような心理的負担がほとんど無くて済むと言えます。
(感情・感覚の傾聴というと、他の技法と間違われることがあるのですが、ハコミセラピーをベースにしていますので、安全にプロセスを促す〝プローブ“”ナリッシュメント“などの技法も用いますので、別のものと言えます。)
このような点でも、感覚・感情を中心としたことばに頼らないこの方法は、従来のカウンセリングやセラピーとは大きく違うものだと思います。
癒しの次にあるもの
さらにこれまでのネガティブな感情や感覚を「出せた」「受け止めてもらえた」という“癒し”で終わらずに、いのちという存在(自分自身)が、今まで精一杯生きてきた自分を認め、自分を受け止める力を甦えらせます。
自分自身が本来持つ、いのちの力強さ・たくましさを、根底から感じ取るところへとシフトします。
例えば、セッションの中で、ネガティブな感情や感覚・記憶が出てきて、それが大きいものであればあるほど、乗り越えた時の自己信頼感も、素晴らしいものがあります。
このように部分的問題解決ではなく、こころの体質改善・根源からの自己変容可能なこのセラピーを、これからもぜひお伝えしていきたいと思っています。